地味で根暗で電信柱な私だけど、甘いキスをしてくれますか?
 駅前の広場には十メートルはあろう高さのクリスマスツリーがある。

 赤や緑のオーナメントの丸い玉が光を煌めかせ、銀色のキラキラモールが幻想的な雰囲気を醸し出していた。天辺の金色の星は見る者に希望を抱かせるような輝きを放っている。

 数組の男女がツリーを見上げてロマンチックなムードに浸っていた。

 私たちもその中の一組として紛れ込む。

 宿り木の下ではキスを拒んではいけない。

 ふと、そんな言葉が頭をよぎった。

 私はちょっと照れ臭くなってきて、あえて佐藤さんから目を逸らす。とくんとくんと打ち鳴らす鼓動が嫌でも彼の唇を意識させた。

「ゆかりさん、知ってますか?」

 佐藤さんが訊いてくる。

「宿り木の下ではキスを断ってはいけないんですよ」

 彼が私の手をポケットから出しながら放し、向き直る。

 擦れたコートの音がなぜか艶っぽさを連想させ私を疼かせた。彼の手が私の腰に周り、再度密着する。抱き寄せられたときにふわっと漂う彼の匂いが私を誘った。

 とくとく、とくとくと胸のリズムが数段速まる。
 
 
 
< 9 / 10 >

この作品をシェア

pagetop