溺愛フレグランス
「犬を飼っていた。その犬が死んだ。
僕は感情面では希薄なのかもしれないな。
生き物はいつかは死ぬもので、その寿命を全うできたって思うだけ。
そして、そういうナイーブな事はあまりベラベラ話したくない。
晴美ちゃんだってそうだと思うよ。
もし、モフ男君が死んじゃったとして、その直後にあれこれ質問されたら嫌だと思う。
そうじゃないかな?」
友和さんの言いたい事は分かる。
確かに、動物を愛する気持ちは人によって温度差はある。
私はそんな友和さんの考え方に少しは納得してしまう。
友和さんが醸し出すおっとりとした大人の雰囲気に、それが正解なのかもと思えてしまう。
友和さんは私の表情を見て、口角を上げ軽く目を閉じた。
そのウィンクのような目配せに私の心は少しだけ警戒心を弱める。
「晴美ちゃん、ケーキ食べない?
甘い物を補給しよう。
二人ともギスギスしてるから、ね?」
「あ、はい…」
友和さんのペースになっている。
そして、私はそれを軌道修正する事ができない。
だって、友和さんの言葉が心に響いている自分がいるから。
大きなマロンがのったモンブランを友和さんは私のために選んだ。
私はモンブランが大好きだ。
その情報だって、マッチングアプリに登録したかは分からない。でも、私の事を何でも分かっている友和さんを疑う気にはならなかった。