溺愛フレグランス
「もうそれ以上言わなくていいから。
変だとしても、今日はこれをするの。
だって、山登りをするんでしょ?」
そうなのだ。
今日のプランは、どこかの土地でキャンプをするらしい。
それなのに、私達は朔太郎の車に乗って、朔太郎の会社がある都心に向かっている。
朔太郎の職場のオフィスビルは、四階建ての縦に細長いビルだった。
まだ改装工事中なので、中には入れないらしい。
朔太郎は近くのコインパーキングに車を停め、ビルの前で誰かを待っている。
「なあ、晴美、この荷物多くないか?」
私はアウトドアの人間ではない。完全なインドアの人間で、小学生の時の林間学校以降、キャンプのようなものをした事がない。
だから、キャンプに何が必要かさえも全く知識がなかった。
「そう? そうなんだ…
水を入れた大きめのペットボトルを二本持って来てるの。
それがきっと重たいんだよね」
朔太郎は必死に持っていた私の荷物を地面に置いた。
ビニール生地の軽めのバッグは、ドサッと鈍い音を立てる。
「何のために水?
え、ちょっと待って。
他に何をもって来てる?」
私はスマホを取り出して、自分なりに調べて必要な物をまとめたメモを朔太郎に見せた。