溺愛フレグランス
友和さんは怖い人だけれど、あの別れ方はどう考えても失礼だと思う。
どういう別れ方が正解なのかは分からないけれど、友和さんに会ってちゃんと村井さんに引き継ぎたい。
引き継ぐと考えていいものかも分からないけれど。
「よかった~ じゃ、場所と時間は追って私から連絡します」
村井さんはそう言うと、腕時計を見た後に珍しく優しい笑みを見せる。
「もうそろそろデスクに戻らないといけない時間だね」
私は機嫌のいい村井さんに思い切って聞いてみた。
「村井さん、友和さんとはどういう…?」
村井さんは、豪快に笑った。
「由良ちゃんから何を聞いたか知らないけど、まだプラトニックな関係よ」
プラトニック??
恋愛に疎い私はその意味すらよく分からない。
「でも、この間の週末、彼の家にお邪魔したの。
変な気を起こして晴美ちゃんに迷惑をかけるような事を阻止したかったし、彼の性格も知りたかったしね」
私はとっさにあの事を聞いてしまった。
「村井さん…
友和さんの家にワンコを飼っていた形跡ってありましたか?
最近、ワンちゃんを亡くしたらしくて…」
今度は、村井さんは身の毛もよだつ微笑みを私に向ける。
「そんなのいないわよ。
彼の空想の中ではいたのかもしれないけど」
村井さんはそんな恐ろしい言葉を残して、その場からいなくなった。
給湯室に一人残された私は、背筋が凍るほどゾッとしている。
私は、慌てて、職場へ戻った。
とにかく、早く、友和さんと縁を切りたいと祈りながら。