溺愛フレグランス


「モフ男のご飯は何時?」

朔太郎は車を運転しながら、私にそう聞いてきた。

「七時くらいかな」
「了解、じゃ、近場の公園に行こう。
そこだったらすぐに帰って来れるから」

私は後部座席から朔太郎の後ろ姿を見ていた。
私に兄弟がいたらきっとこんな感じだったのかなと想像しながら、モフ男の鼻をずっと撫で続けた。それくらい朔太郎の存在は、私にとって大切なものだった。
日が暮れた公園は、もう人がまだらだった。
子供や親子連れがほとんどいないせいで、公園の中は静まり返っている。

「モフ男、行くぞ」

朔太郎はそう言うと、モフ男のリードを持って走り出した。
モフ男は楽しそうに必死で朔太郎に付いていく。
私はゴールを作り、その場所で二人を待った。
一番遠くに見える噴水を目指して走り出した朔太郎とモフ男の姿が、あっという間に小さくなる。

オレンジ色の夕焼けとちょっとだけひんやりとした乾いた風が、私の気持ちをノスタルジックにする。
こういう光景は子供の頃からよく知っている。
何だか胸が熱くなった。

「ゴール!」

結局、最後の方は朔太郎がモフ男に引っ張られている。
私はその無様な格好を見てお腹が痛くなるほど笑った。
そして、私達はイチョウ並木の続くベンチに腰掛ける。


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