溺愛フレグランス


「このイチョウの木は本当に綺麗だよな。
地元にこんな素敵な場所があるって、本当ラッキーだよ」
「そんなに地元が好きなんだったら、こっちに帰ってくればいいじゃん。
全然、東京まで通えるし」

朔太郎は空を見上げて、そうだな~と呟いた。
でも、朔太郎は絶対に帰っては来ない。地元にはたまに帰って来るのがいいんだなんて、散々聞かされてきたから。

「なあ、その晴美のマッチングアプリの相手の事、教えてよ。
昨日も今日もずっと気になって、すごいストレスなんだ。
何でもいいからさ…」

私はあの夜、マッチングアプリについて朔太郎に話した事を後悔していた。でも、話してしまったものはしょうがない。
私は少し考えるふりをして、足元に落ちているイチョウの葉の中から綺麗なものを選び、モフ男の頭にのせた。そして、キョトンとしているモフ男の顔を写真に撮る。
そんな私を見て、朔太郎はねえと問い詰める。

「もうその事は忘れていいよ…
いつか、ちゃんと結果が出た時に教えてあげるから。
ほら、朔太郎、モフの横に移動して。
写真、撮ってあげる」

朔太郎はモフ男の隣には行かず、私の目の前に立った。明らかに拗ねている。その表情とは裏腹に、私の頬に優しく触れると艶っぽく私を見つめた。


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