溺愛フレグランス
「まだはっきりとは言えないけど…
明日、あの男と会うんだよな?」
朔太郎の切羽詰まった空気感に、うんと言えない自分がいる。
でも、とりあえず軽く頷いた。
「そんなしつこく調べたわけじゃないんだけど、その男の名前、もしかしたら偽名かもしれない」
「偽名?」
私はバカバカしくて、大きな声でそう聞き返してしまう。
「多分、ね」
朔太郎はお茶を手に取ると、ちょっとだけ首を傾げる。
そして、わざとらしい笑みを私に見せた。
「徹底的に調べてない。
個人情報うんぬんとかいうのもあるし、それに、もしそいつがヤバイ奴だったら、晴美の私生活を全部管理しなきゃならなくなるし、そこまで俺が踏み込んだら嫌だろ?」
私はぶんぶん頭を縦に振った。
そんな私を見て、朔太郎は疲れたようにため息をつく。
「明日、そいつと会ってみて、変な感じ、いわゆる違和感みたいなものを感じたら、その日で会うのはやめてスマホのやり取りもやめる事、いい?」
「違和感って、どんな?」
わたしは変に緊張してきた。
友和さんと会う事をすごく楽しみにしていたのに、ちょっと気持ちが億劫になってきた。
「う~ん、そうだな…
明日はどこで会うの? どっかのカフェ?」
私は静かに目を閉じた。
これだけは朔太郎の耳に入れたくない。
でも、この流れで言わない事は、明らかに変な空気になる。