溺愛フレグランス
私は何だか悲しくなって、もうその先を言う事をやめた。
マニュアル通りに進めている私と友和さんは、他の人から見れば滑稽極まりないのかもしれない。
「もう、いい」
私の投げやりな言葉は、朔太郎の心に何かを訴えたらしい。
朔太郎は持っていた湯飲みをテーブルに置くと、帰る準備をし始めた。
「モフ男が嫌がるようだったら、俺にすぐに電話して。
迎えに行くから」
私は泣きそうになる。
何だか、モフ男を利用している自分が悪者に思えてくる。
「朔、そんな怒らないでよ…」
「怒ってないよ」
「怒ってる」
私の言葉に、朔太郎はもう一度私と向き合う。
「とにかく、その男の名前と職業をちゃんと聞いてくる事。
ちゃんと自分の事を名乗れない男はろくなもんじゃないから。
名刺も忘れずにもらう事。分かった?」
私は渋々頷いた。
そんな変な人じゃないと、友和さんの事をかばいながら。
「おばちゃ~ん、もう帰るね~」
朔太郎は泣きそうな私を置いて、リビングにいる両親の元へ向かう。
朔太郎の冷たい態度は私の心にナイフのように突き刺さったままで、何だか苦しくてしょうがない。
「晴美、じゃあな」
玄関先から聞こえる朔太郎の声に、私は堪え切れずに泣いた。
たかが幼なじみなのに、何で朔太郎の存在が気になるの?
家族でもない恋人でもない友達でもない居心地のいいはずの存在が、今は私の足かせになっている。
昔の朔太郎はいつも私の味方だった。そんな朔太郎が大好きだった。
でも、大人になった私達の感情は、どう説明すればいいのかよく分からない。
この涙だって何に対して流しているのか、今の私にはまだ何も分からなかった。