溺愛フレグランス
「晴美ちゃんが、もしいいのなら、僕の家に行かない?」
今日の一日で、友和さんは私の事を晴美ちゃんと呼び始めた。
「友和さんの家ですか?
行きたい! キャンディちゃんに会いたい!」
すると、一瞬、友和さんの顔が曇った。
夕方の橙色の柔らかい陽ざしに照らされた友和さんの表情は、明らかに別の人だ。車の中のほんのり温かい雰囲気が、嘘みたいに冷たくなった。
「キャンディ、なんだけど…」
いつものはつらつとした友和さんは、今はここには居ない。
私は怖くなって窓の外の風景を見た。友和さんの目に何かを感じてしまいそうで。
「実は、キャンディは…
この間、亡くなったんだ…」
私は心臓が止まるかと思った。
想定外のその答えは、ワンコ好きの私の心にナイフを突き立てる。
「え、噓…
だ、だって、三日前だっけ?
キャンディちゃん、元気に飛び跳ねてるって…」
「あ、そうか、そうだっけ?
いや、本当は、本当はって変だよね?
亡くなって… もういないんだ」
明らかにおかしい。それは、鈍感な私でもその違和感にちゃんと気付いた。
「亡くなったなんて…
いつ亡くなったんですか? 病名は?
ちゃんと弔ってあげたんですか?」
もし、それが本当ならば、友和さんの今までの笑顔と明るさは何だったのだろう?
数日前に大切なワンコが亡くなって、こんな風に何事もなかったようにふるまえる?
私の頭の中は完全にパニックを起こしている。