翔ちゃん雨だよ一緒に帰ろ?
「あんただって本当は見たいだろ美緒ちゃんのメイド服!素直に吐けこのハゲ!」
「ハゲてねーし、そんなの考えたこともねーし!」
「じゃあ脱がしたいのはチャイナ服ってことなのね」
「それじゃ話が飛躍しすぎだろ!」
元から俺の話は基本聞かない人だけど。
「ナース服には白タイツ付けてねって床に額こすりつけて土下座したら貸してやってもいいよ?」
出ました病気、話にならねぇ。
「ふざけてないで普通の貸して。頼むから」
「おまえあたしを怒らせたことに気付いてる?」
「謝ります、マジで」
謝罪するしかない。
今までみたいにこの人の追撃をかわす術を俺はもう持っていないということに、気づいてしまったから。
「貸さないという選択肢もあるんだよ?」
「それ性格悪すぎ」
「バスタオル一枚の刑に処してやろうか?」
「それだけはマジで勘弁してください」
それは自覚というのか。
いや、覚醒なのか。
つまりは、岡崎。
あいつの存在を知ったことで自分の気持ちと向き合うトリガーに触れてしまった。
さっきの男子校のヤツらがそれに追い討ちをかけた。
『翔ちゃん!』
『ねぇ翔ちゃんほら、虹が出てるよ!』
後ろから明るく呼ぶ声をいつも無視していた。虹が出てたら何?子供かよ。
そんなふうに。
でも美緒の声に振り返りさえすれば、いつだって一緒にその景色を見ることができたんだ。
さっき男子校の奴らを前にしたとき、抑えようのない不快感とその思いは直結した。
俺はずっと美緒を大切に思っていた。
たぶん、気づきもしないくらいチビの頃からずっと。
ミルフィーユみたいに幾層にもなっていた想いが、奴らの視線に触れたことで思い切り崩れて。
そしてあふれた。