翔ちゃん雨だよ一緒に帰ろ?
「なに?これ」
「何って、私が唯一できる手品」
彼女が首を傾げると、まっすぐな髪がさらりと揺れた。
「私が泣いてたときに、岡崎君がいきなり手品します、鳩出します、ってこうしてくれたんだ」
「岡崎君が?」
「本物が出てくるかと思って見守っちゃって、そしたらこんなのが出てきて。驚いたし、鳴き声とか全然似てないしで、結局笑っちゃって」
きっと、あの時のことだ。みんなの前で翔ちゃんにフラれた奥寺さんを、彼はきっと追いかけたんだ。
「びっくりすると涙って止まるんだよって、彼が教えてくれたの」
「……うん、それ知ってる」
私にそれを教えてくれたのは翔ちゃんだった。
「毎日岡崎君の顔見てたんだけど、最近顔見せてくれなくなって。そしたらなんか急に不安になったから、勇気を出して来てみたの」
そう話す彼女は、困ったように笑っていた。
「彼のことを好きかどうかまだわからないけど、次会ったときに自分の気持ちがどうなってるかも同じくらいわからない。
明日の放課後には、案外岡崎君の彼女になってたりして、って最近ふと思うこともあるんだ。洗脳されたのかな?これって、何だろうね」
彼女はちょっと恥ずかしそうに、微笑みながらそう言った。