『ただ、君だけを愛したくて』
ーーーキーンコーンカーンコーンーーー
午後のチャイムが鳴った。
空を飛ぶハトのむれが再び小屋に集まるようにして、生徒たちの羽音がそれぞれの教室にかき集められる。
「起りーつ!
礼っ
…
着せーき!」
号令当番の女子の声。
どうしてだろう、当番の声は男子も女子も、みんな同じに響くような気がする。みんながそのときだけ、ロボットになってしまうような気がする。
「テスト返却なー」
40後半の気怠そうな男の声。担任の奥村だ。奥村は2ヶ月前にこの学校へと赴任したばかりの国語の先生だ。
………3ヶ月前………
「あ? 今なんて言った?」
「だからお前っ!生徒会長なんだからよう、バンドなんてくだらねぇことやる前にまず、やるべきことがあるだろうが、違うか?」
「…バンドがくだらない? …は? ちょっとおっしゃっている意味がわかりませんが」
「学生は学生らしく部活!勉強!生徒会長なら生徒会長らしく乱れた服装の生徒どもの風紀指導!校内の清掃活動!先生方のサポート!行事の立案!
…色々と山積みだろうが。そんなくだらねぇバンドなんてものはな、ただの時間の無駄なんだよ。正直言ってなぁ、お前には適していないぞ? お前にはせめて早稲田くらいには行ってもらわんと困るんだよ。ワタシのメンツってもんがあるしなあ。わかるかね?」
「……わかりました」
「よろしいっ!さすがは生徒会長たるものだ!物分かりだけは一流かもな? ハハハハハ!」
次の日から、このイソベという国語の担任はこの学校へと来なくなった。校内のざわめきと、校外のセミたちもザワザワとうるさい初夏の朝だった。
「柚月ー!? お前イソベやっちゃったの?笑」
と、男子A。
「柚月くんがそんな事するわけないじゃないっ!バカ男子っ!」
と、女子A。
「じゃあ死んだって事で!はい終了ー!笑」
と、男子B。
実際、柚月には前々から色々な噂がある。
・超能力が使える。
・瞬間移動ができる。
・闇市場からお金を仕入れている。
・人工知能を持っている。
・空を飛ぶことができる。
・女子を100人以上囲っている。
・暴走族のヘッド。
・あの住んでいるアパートはダミー。
・実は天使&神。
・実は悪魔&死神。
・実はセカオワのピエロ。
・異世界の住人。
…などなど。
でも、本当の事を知っている生徒は誰もいない。
ーーーこのわたしを含めなければだけどねーーー