『ただ、君だけを愛したくて』
中学二年生の頃、柚月はわたしに打ち明けた。
「信じてもらえないと思うけど、俺、この世界の人間じゃないんだ」
「はっ??」
「月の住人」
「ねぇ、柚月、まじそういうネタつまんない。笑」
「ここから見える月じゃないよ、もっと向こうの、さらに向こうにある、【第三の月】ってところで産まれたんだ」
「ふーーーん」
「あはは、やっぱソノカでもわからないよね。ソノカなら、信じてくれると思ってたんだけどな…」
「うーん。じゃあさ、ここの人とそこの【第三の月】の人に、何か違いでもあるの? 柚月は普通にここで暮らしてるじゃん。わたしにはそう見えるけど」
「夜、だけどね、俺、いつも帰ってるんだよ。その月に。なんでかわかる?」
「わからない」
「死んじゃうんだ」
「死んじゃうッ?!どーいうこと?」
「じゃあさ、ソノカ。俺が水飲んでるとこ、今まで見たことある?」
「………ないかも知れない。え、まじでないかも知れないっ!」
「でしょ」
「うん、どうして?」
「だから、死んじゃうのっ!笑」
「どうして?」
「地球の水は俺の体にとって、毒と同じなんだよ。でも、ほんの少しの量ならなんとか耐えらるんだけどさ。それか加熱された料理とかなら一応第大丈夫かな」
「どうしてもっと早くに教えてくれなかったの?」
「恐がると思ったからさ」
「そんなことないよ、わたしは柚月のこと恐いなんて思ったこと一度もないもん」
「それならよかった」
「どうやって帰ってるの? その月には」
「それは、内緒」
「わたしも行きたい」
「………はっ?!」
「ずるいよ、柚月ばっかり。わたしを置き去りにしないでよ。別に、柚月の事が心配なだけなのっ」
「ソノカにはこの世界があってるよ。俺には、この世界はあってない。けど、向こうの世界は、とっても寂しいんだ」
「他にも人はいないの?」
「いるけど、みんな、人間じゃないんだ」
「……………はあッ?!」
「ウケるでしょ」
「う、うん。…少しウケる。それが嘘ならね」
「ウッソォーッ!笑」
「まじ殺すよ、あんた」
「まあ、いいや。…あ、今日放課後空いてる?」
「うん」
「ちょっと俺んち来なよ。いいもの見せたげるから」
「はいはい、わかりまーしたーぁ」
柚月が部屋で見せてくれた石がとっても綺麗だったのを今でも覚えている。それはヒスイセキという緑色の石だった。
わたしは、その石がこの地球上のものではないと直感した。事実、その石はこの世のものではなかった。
柚月に後ろから抱きしめられて、
「ソノカ、一緒に行こう」
と、言われた直後、目の前には信じられない光景が広がっていた。