『ただ、君だけを愛したくて』
【第三の月】というところは、わたしたちが知っている月のイメージとはあまりにもかけ離れていた。
そこは、青色と緑色が広がっている不思議な森のような所だった。
「柚月、ここって…?」
「…そう」
「【第三の?」
「月】、だよ。…結構キレイな所だろ? 俺の故郷さ」
「綺麗……」
「気に入ってくれたようで安心したよ」
「まるで夢でも見てるみたい」
「そのうち慣れるさ。あ、ソノカ? なんか…」
柚月の気配がわたしの背後に近づいて、後ろを振り向くと、
「えっ」
「ごめん、我慢の限界だった」
柚月が青い目をしていた気がする。わたしは、柚月のその瞳に引き込まれるようにして唇を奪われた。初めてのキスは、夢に染まった。甘く、とても不思議な夢だった。
「…柚月…なの?」
「多分ね」
「目、それになんか、雰囲気がいつもと違う気がする」
「元に戻ってきたようだね」
「どういうこと?」
「俺の本来の姿に戻ってるってこと。…言っとくけどな、人間の姿って意外と疲れるんだぜ?」
「柚月は人間じゃないの?」
「うん、多分ね」
「ねぇ、なんでキスしたの?」
「昔もよくしたじゃん。3歳とか4歳のときに」
「あれはただのお遊びみたいなものでしょ? …もしかして今のもそうなの?」
「なわけねーじゃん?笑」
「………」
「ソノカ、ずっと前から好きだった。
俺と、付き合ってくれるよな?」
「…無理。キスしてから付き合うとか、そんなチャラい奴わたし無理だから」
「とか、言ってみたりして?」
「あんまりからかうと怒るよ、ほんと」
「あー、ごめん。…でも言っとっくけどな、俺はお前のこと好きだし、諦めるつもりもないからな?」
「………」
夢の中だったらわたしは、きっと柚月のことを抱きしめていただろう。あのときは、柚月にもてあそばれている気がして、わたしの夢が風に流されてしまったのかも知れない。
でも、それで良かった。だって柚月はいつか、わたしから、わたしたちから遠ざかる運命を背負っているのだから。
そんな別れ方をするくらいなら、付き合わない方が良いに決まってる。
別れるのが最初からわかっちゃう関係なんて、ほんと嫌。
わたしの彼は、最初のキスをわたしの唇に残したまま、わたしにフラれた。
儚い恋は、青い湖と緑の森に吸い込まれ、次に行く場所を探し始めているようだった。