会長。私と恋のゲームをしてください。
「……じゃあ、私は行くね」

「美雪。本当に、この町に残るの?」

「うん。私は大丈夫だから」



お母さんの泣く姿は見たくない。

私はリビングに背を向け、靴を履く。



「……またね」



その言葉は、お母さんとお父さんに聞こえていたのかは分からない。


返事がなかったから……。

返事はなくてよかったかもしれない。


声を聞いてしまったら。

姿を見てしまったら。


私はきっと、涙を我慢できなかったかもしれない。

こらえていた何かが、ダムが壊れたようにあふれ出てしまうと思う。


私は、重い荷物を持って、夜の街へ飛び出した。

肌寒い風が私の頬に当たる。


大丈夫。


そう、自分に言い聞かせるけれど、あてもなく飛び出してきてしまった。
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