会長。私と恋のゲームをしてください。
「ありがとうございました。会長も気をつけて帰ってください」



私は会長に頭を下げる。

回れ右をして会長に背を向けたそのとき。


ぐいっ。

リュックに手をかけられたのか、前へ進むことが出来なかった。

バランスは崩したものの、転ぶことはなかった。


予想外のことに心臓がバクバク言っている。

両手を心臓部分にあて、呼吸を整える。


急に後ろへ引っ張られるんだもん。

びっくりした。



「家まで送る」



……え?

今、なんとおっしゃいました?

振り返って会長の顔を見つめる。

会長が私を家まで送る?


そんな優しさ、会長にあったんですね。

……まあ、泣いている私を見捨てなかったところも優しいとは思ったけれど。


それより。



「私、家、ないんだった……」



現実に戻された感じがする。

『家がない』と口にすると、現実味を帯びてくる。

気力でなんとかしようと思っていたことも、何とか出来ないような気がしてきた。


どんどん表情が固まっていく。
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