会長。私と恋のゲームをしてください。
「分からないことあったら呼んでね!」

「ありがとう」



そう言って、夏樹ちゃんは脱衣所を出て行った。


脱衣所で1人。

なんとなくそわそわしてしまう。

こんなシチュエーション、初めてだし。


今日は嵐のようにいろんな出来事が過ぎていった。

家がなくなることになって。

家を飛び出して。

会長に拾われて。

私の平凡な人生の中にも、とんでもない出来事が舞い込んでくるんだな、って思った。


そんなことを考えながらシャワーを浴びる。


そうだ。

あとで、お母さんとお父さんにメールを送ろう。


私のことは心配しないで、って。

大丈夫だから。

またみんなで揃う日を待とうね、って。


心が震える。

それは、悲しみや不安、恐怖とかではなくて。

私を見つけてくれた会長と、明るい笑顔で照らしてくれる夏樹ちゃんがいると思えるから。


だから心が震えるんだ。



「感謝しかないよ……」



小さく呟いた言葉は、シャワーの音によって掻き消された。
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