会長。私と恋のゲームをしてください。
「北澤。手を出せ」



会長の言うとおり、手を出す。

ぽとり、と私の手のひらに何かが落ちた。

何かと思って見れば、会長がさっきまで使っていた家の鍵だった。



「え……」

「鍵がないと不便だろ。俺はスペアがあるからいい」

「……ありがとうございます」



私は、キーホルダーも何もついていない鍵を見つめた。

なんだか高橋家の一員になった気がする。

恐れ多いけど。


それでも、会長の気持ちは嬉しかった。

この鍵をなくさないように、お気に入りのキーホルダーをつけよう。



「やべっ。遅刻だ」



顔をあげれば、少しあせった表情で会長は腕時計を見ていた。

私もつられて、自分の腕時計で確認する。



「遅刻、ですね」



腕時計の文字盤は、9時15分を示していた。

完全に遅刻だ。

走っても間に合わないと思うけど。
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