『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
(はぁぁぁぁぁ)
 バケツの水でも取り換えてこよう。
 よっこらしょ…っとバケツを持って。
 廊下に向かいかけたら、
沙月(さつき)は? またカナダの別荘?」
 だれかが沙月に聞いた。
 豪勢だからな、沙月の家は。
 せっかくの夏休み、ゾンビがいないことなんて問題なさそうね。
 ひとごとながら、ちょっと安心。
(ばかだよォ、あたしは)
 ため息をついて廊下に出たら、
「カナダも行くけどねえ。うふふ」
 沙月の甘い笑い声が、教室からもれ聞こえてきた。
 …なんだろ?
 やけにうれしそうじゃんか。
 今年はスイスもとか言うかあ?
「あっちに行ってもパパやママはお仕事だし。今年はひとりで先に帰ってきて、2泊3日で大阪に行くのぉ」
 大阪?
「なに、それ? だっさーい」
「それがどうして、そんなにうれしいのよ」
「あ、わかった。宝塚に好きなお姉様ができたんでしょ」
「あら、浮気? 講演会のおばさまたちが怒るわよぉ」
 おねえさま!?
 浮気!?
「やぁね。そんなの秘密にしてバレたら、おばあ様が卒倒するわ。…というかね、ひとのこと、子どもあつかいしないでちょうだい」
「じゃ、なんでぇ?」
「そうよ! なんで?」
 あたしもなんとなく、会話の続きに興味があって廊下で立ち止まる。
「だあってぇ、彼が来いって言うからぁ」
「きゃ――っっ!」
 
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