『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 あたしってば、名前も知らない駅で降りる勇気もないし。
 補導員さんがこわくて、繁華街も歩けない。
 あんなにあこがれていた新宿や渋谷の街のひとり歩き。
 終業式の日の明るい昼間なら、制服で出歩いてる子だって、きっと大勢いたんだろうに。
 ただ、電車の椅子に座っていただけ。
 ばかだ。
「帰ろう……家に」
 こうしていても、ただ、あいつのことを考えるだけだから。


「おそかったやねえか」
 改札口の前にゾンビが立っていた。
 腕を組んで、それっきりムスッとなにも言わないから、家でお母さんが心配している様子が目にうかぶ。
「いいでしょ? たまには。あたしだって子どもじゃないんだよ。だいたい、まだ9時前だ」
 あたしが歩きだすうしろを、ゾンビがついてくる。
「なんで電話の1本も、よこさなんだんや」
 うるさいっ。
「いつもきちっと門限守るやつが、突然黙って遅うなったら、みんな心配するやろ」
 うるさいっ!
(ちくしょう!)
 余計なお世話じゃないか。
 あたしがちょっとおそくなったって。
 ちょっと連絡しなかったからって。
 なんで、きみに心配されなきゃいけないの。
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