『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「…………」
 身体の震えは止まったのに、身体の芯がじーんとしびれている。
 とても声なんか、だせなくて。
 返事のかわりに、ゾンビの胸に、ちょっぴりおでこを当ててみる。

 とくんとくん
 とくんとくん

 聞こえる。感じる。
 ゾンビの心。
「…………」
 頭をなでてくれていたゾンビの手が、ふいに止まった。
「もうずっと(せん)、おまえがおれをこわがっとった、こーんな小さな子どものころから、おれはおまえが好きやった」
 う…そ。
「ばーさまだけが、知っとったんや」
「う……そ」
 ゾンビの腕がゆっくり背中からはなれて、あたしの両肩の上で止まった。

 公園のたったひとつの街灯からさす斜めの明かりで、半分影にうもれたゾンビの目は、見たこともないほど、やさしく光っていた。
 肩に乗せられた手に少しずつ力が入る。
 引かれている。
 わかるのに、あたしの心は逆らわない。
 身体はとうに逆らうのをやめていたから。
「……ぁ……」
 あたしは、そのまま背中にまわった腕でまたやさしく抱きしめられていた。
< 114 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop