『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「春加、お昼の前にお買い物に行きましょ」
お父さんを送り出したお母さんが、エアコンを止めて窓を全開にしながら空を見上げて言う。
「やだよ。もう暑いし」
「なに言ってるの。午後はこんなもんじゃないわよ」
「なら、行かなきゃいいじゃん」
「あなた、新しいスニーカー、ほしくない?」
ほしい。
「じゃ行くわよ。荷物持ちよろしく」
「…………」
そうだね。
それくらいだ、あたしができることは。
夜に電話をくれるという約束が守られるかどうか。
信用しきれないまま夕飯の前にお風呂に入って、お母さんとふたりでご飯を食べたら即、部屋に引き上げた。
ケータイを握りしめて待っていたのに、あたしに現実をつきつけたのはお母さんのよそ行きの笑い声。
「なんなのよぉ」
あたしは、あなたの、なんなのよ。
もちろん、そんなことを思ったことすら恥ずかしいから、ベッドの上でごろごろもだえていたら、ドアがノックされて。
「望さんよ」
お母さんに渡された子器。
お母さんは当然のように出て行かない。
よし、わかった。
「なにっ」
思いっきり不機嫌な声で出てやると、とたんに耳を離したほど向こうがさわがしくなる。
「これから駅に行くで、着くの…」「だから、やめえて」
タッチャンだ。
そのあとはもう、やかましくて、ゾンビがなにを言っているのかさっぱりわからなくなった。