『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-

 ゾンビは髪の毛ツンツンのバンドマン仕様のまま、荷物も持たず、タバコの匂いが染みついた服で帰ってきた。
 同じ夜行バスに乗り合わせたかた、お気の毒。
 もちろん、朝6時の帰宅を迎えたのは、目覚ましアラームを3段階もセットして5時半から髪の毛のセットをしていたあたしと、それをからかいながら朝食の仕度をしたお母さんだけで。
 洗面所でお風呂上がりのゾンビと出くわしたお父さんは『うぉぉぉぉ』と吠えながら、リビングに逃げてきた。
 幽霊だと思ったんだって。

 インターコムで食事の支度はできていると告げたら、上がってきたゾンビは真っ直ぐ仏間に行った。
 すぐにお線香の香りが漂って。
 お(リン)がチーンチーン。
(のぞみ)はいい子だな……」
 新聞をたたむお父さんに、お母さんもうんうんうなずいた。
 提灯や、きゅうりの馬や、たくさんの果物……。
 うちのお仏壇にはなにもないけど。
 おばあちゃんはおじいちゃんと、もうあちらの世界に帰ってしまっただろうけど。
 それでもゾンビは、濡れてぺとっと頭にはりついた髪のまま、静かに両手を合わせていた。
「ごめんな、じーさま、ばーさま」
 つぶやいたのが聞こえたから、あたしもとなりに座って南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)
 両手をあわせて、ご報告。
「ちゃんと宿題しとるか、春加(はるか)
「そこかい」
 両手を合わせてうつむいたまま小声で言い合って。
 ふっと上げた視線がぶつかる。
「ただいま」
「――おかえり」
「行くぞ」
「おぅ!」
「…………」
「…………」
 見つめあって。
 笑いだしたのも同時。
 おばあちゃんの遺言(ゆいごん)を、かなえてあげられるかどうかはわからないけど。
 あたしは望くんが好きだよ。
 好きになったよ、おばあちゃん。
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