『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「なに見とるんやぁ」
 あはははは。
 ふにゃふにゃしちゃってえ。
「なーんにも」
 大好きよ。
 言わないけど…ね。


「おっ。おった、おった。あそこや」
 鎖をジャラジャラさせてタッチャンがホームを走ってくる。
 うしろには、ニヤニヤ笑ったドラムとベースのお兄さん。
「永井さんは?」
 ゾンビが聞いた。
「まだまだ。あいつがそんな20分も前に、来とるわけねぇやろ」
「ほしたら、春加(はるか)ちゃん。そら、かくれるぞ」
「うん!」
 なんだか、わくわく。
 沙月(さつき)には悪いけど、この『永井さんの淫行を阻止する会』は、タッチャンの発案だもんね。
 神聖なツアー中に、なんたるこっちゃい! ってやつだ。
 お母さんが旅費を出してくれたのも『その子にきらわれる覚悟はあるのね』って聞かれて、あたしが『はい』と返事をしたから。
 それはつまり、あたしはまだ男の子とオトナな関係になることを望んでいません…ていう表明だと、お母さんはわかってくれた。

「よし、行こか」
 ゾンビが自然な仕草であたしの重いピギーバッグを引いてくれる。
 線路側を歩いてくれるのも気づいてる。
 そういう言葉にしないやさしさは好きだなぁ…って、思う。
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