『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
(あっ……!)
 ふりむくと、ゾンビはホームにしゃがみこんで、ぷるぷるふるえていた。
(笑ってる)
 笑ってるわね。
 こんちくしょおおおおお。
(また、やられた)

 新幹線のドアが開く。
「せーのっ!」
 タッチャンが言って。
 目をまるくしている沙月(さつき)と、なんにも気づいてない永井さんの頭の上に、

 ッパ――アアアン!

 クラッカーの紙ふぶき。
 びっくりしてふり向いた永井さんは、あたしたちの顔を見ると、沙月を振り返りもしないで走りだした。はずが……、
 ズッデーン!
 紙ふぶきに足をとられて大転倒。
「キャーッッ。よっちゃん、大丈夫?」
「よっちゃんだぁ?」「なんという!」「許せん!」
 お兄さんたちは大笑いしながら、ひとをからかう機会はのがさない。
「うわぁぁぁ! やめんか、こら! ちょっ! おいっ」
 もみくちゃにされている永井さんを見て、
「明日はわが身…」
 ゾンビがつぶやいたから、
「百年後じゃない?」
 あたしがすまして言うと、
「そんなに待たされるんか!?」
 ゾンビが口をぽかん。
 それがあんまりおかしくて。
 あははははははは。
 大笑い。

「ひっどーい! お春! あなた、こんなとこでなにやってんの?」
 ははははは。
 それについては、また、あとにしてぇ。
 あはははは。
 笑いが…‥止まんないィィィ。
 あんまり、しあわせ…で。


 その日のライヴは、東京で見た何倍もカッコよかった。
 ときどきさりげなく腰をこするヴォーカルに、涙をながして笑いこけるあたしとタッチャンに、沙月がものすごく不機嫌な視線を投げてよこしたけど。
 演奏に夢中のギタリストが、MCの間だけは、いつも同じ場所を見つめているのを知っているのが、あたしだけだったからね。

ーENDー

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