『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 鼻の奥がつーんとして。
春加(はるか)?」
 泣くまいと思ったのに。
「ば…かやろ。呼びつけするなって言っ…た」
 涙がつーつー(ほほ)を流れてくる。
 こんなふうに、おばあちゃんを思い出すたびに泣けるなら、あたしはりっぱな女優さんになれそうだ。
 ぐいっと袖で涙をぬぐいながら苦笑い。
「春加……」
 隠したつもりだったのに、ゾンビは意外とめざとくて。
 腹立たしいけど差しだされたティッシュボックスはありがたく受け取った。
 鼻水まで袖でふくのはいやだから。
「幸せやなぁ、ばーさんは」
 ちくしょう。
 なんでもわかってるみたいな顔、するな。
 いやなヤツ。
 あー。
 だから【おばあちゃんの家】には、降りてきたくなかったんだ。
 こんなにおばあちゃんの思い出がいっぱいつまった場所に、あたしはいられない。
 もう二度と降りてなんか来ないからな。
 でも、そのまえに、
「言ったら……殺す」母さんたちに、ペらペらしゃべったら、
「殺すからねっ」
「別に、テレなくてもいいやねぇか」
「うるさいっ」
「へいへい。秘密やね。リョーカーイ」
 んもう。
「こんなことで、弱みをにぎったなんて思わないでよね」
「思うもんか。ほしたら、相あわれむ…ってやつやなぁと思っとったぐらいや」
 な…んじゃ? それは。
 もう一度、袖で涙をぬぐってゾンビを見ると、ゾンビはおでこに落ちてきた髪の毛を、指でつまんでうつむいた。
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