『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「春加ぁ」
呼ばれてふり向くと、白いワイシャツの袖をひじまで折り曲げて、黒いネクタイはシャツの胸ポケットのなかっていうゾンビが、両手をうしろにまわして、あたしを見下ろしていた。
だれにも見つからないように階段の途中に座りこんでいたのに。
「なによ」
「いつまでそうしとるんや。おばさんがメロン切ってくれたで、来やぁ」
「いいよ。親戚のおばちゃんたちの、つまんない話をかしこまって聞くくらいなら、いらない」
ゾンビに背中を向けてうずくまったら、階段をトストス下りてくる音がして。
(あ…れ?)
やだ。メロンの匂いがする。
ふりかえると。
ゾンビがメロンののったお皿を2枚、両手にのせていた。
「そんなことだと思ったんや。ばーさんのぶんはないでな。行くぞ」
「ちょっ! どこに?」
あわてて立ち上がって。
黒のストッキングをはかされた足がツルッとすべる。
子どものころは、よそゆきのストッキングをはかされると、ここぞとばかりにスケートごっこをしたけど、今はそんな場合じゃない。
とんとん階段をのぼっていくゾンビの行く先。
いやな予感。