『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「ちょっと待って!」
 ピアノの上の物を、端からベッドの下に押しこんで
「…どぞ」
 あたしだってピアノくらい弾けるんだもんね、を演出。
 ドアを開けてやると
「おっじゃまぁ」両手にメロンのお皿を持って、きょろきょろ入ってきたゾンビは思惑どおり、
「あ。ピアノやねぇか」
 机の上にお皿を置くとすぐ、ピアノの前にとんでいった。
「弾けるのか?」
「あったりまえでしょ」
 うひひひひ。
 あー、いい気持ち。
「いやぁ。さすがにピアノだけは、よう持ってこんやろ。うー、鍵盤さわるの1カ月ぶりや。えーやろ? 弾かしてくりぁ」
 えっ?
 やだ。ピアノも弾くの? こいつ。
 うそだろぉぉぉぉ。
「あれ? 椅子は?」
 うっ。
 そんなの、あるわけ、
「………ない」
 何年弾いてないと思ってんの?
「ないィ?」
 ピアノのふたを上げているゾンビの目が、半開きになった。
 探るみたいにあたしを見てる。
「ツェルニーか? ブルグミュラーか?」
 …なに、それ。
「その顔は、さっぱりわからんゆう顔やな」ため息をつく。
「いつから弾いてないんや?」
 とほほ。
 ヤブヘビだ。
「えーっ…と」
 あたしが挫折したのは、あれは確か小3だったから……。
 ひーふーみー、指を折って数えだすと、ゾンビが頭をかかえた。
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