『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「なによ。失礼しちゃうわね。そんな態度するなら弾かしてあげないよっ」
「弾けねぇよ」ゾンビがピアノに向き直る。
「いいか……」
 右手の人指し指がド、白い鍵盤を押した。
 とたんに、がっくりゾンビの肩がおちる。
「ほれ見い。でら狂っとる……」
「どこが」
「あーあ」ため息みたいに言って、ゾンビはあたしのベッドにどすんと着地。
「そりゃ、調律師さん呼ぶのもきのどくやわ」
 すっかりピアノには興味をなくして、お皿のメロンにかぶりつく。
「なにがダメなのよ」
 久しぶりの鍵盤がまぶしくて、うろおぼえの指をひらいて、
 ド レ ミ ファ ソ
「…あれ?」
 音階を弾いてみたら、たしかになんだか、変。
「やぁだぁ」
「そこまで弾かんと、わからん? どんな耳しとるんや、おめぇは」
 うるさーい。
「文句があるなら岐阜から、えっちらおっちらかかえてこい!」
「あのなぁ」ゾンビがフォークをふりまわす。
「たまにはおれが年上だってこと、思い出させたろうか? あん?」
 えらそうに。
「まあ、ええ。こんなんでも、ないよりマシやもんな。調律師さんと業者さん頼むで、それまでにまーちっと、部屋、かたずけときゃぁせ」
「なんだってぇ?」
(あっ!)
 ゾンビがかがんで。
 さっきあたしが放りこんだテデイベアのぬいぐるみを、ベッドの下から引っぱりだした。
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