『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「あら望さん。メロンは召しあがった?」
 ふり向いたお母さんのよそゆきの声に、(ほほ)が引きつる。
 これは、怒らせたらだめなやつだ。
「ええ。ごちそうさまでした」
 同じくらい気持ちが悪いよそゆきの声で返事をしたゾンビから、お母さんはニコニコとお皿を受け取った。
 あたしが持ってたら絶対に! 洗えって言ったよね?
「お母さん、(のぞみ)くんがお茶飲みたいって」
「あら、お茶?」
 お母さんがお皿をシンクに置いて、戸棚に手を伸ばしかけるのを、
「あ、大丈夫。下で自分でやりますから」
 ゾンビが手をふって止める。
 んもう!
「うそばっかり!」
「ほら。じゃまになるからサッサと下に行くぞ」
 ゾンビは平然とまたあたしの腕をつかんだ。
 信じられない。
 お母さんが見てるよ? いいの?
「あたしに命令しないで」
「命令? いつ?」
「あたしにやらせようとしてるでしょうが」
「ああ。お願いはしたね」
「どこがお願いよ。あたしは、いやだからね」
「言いかたが悪かったなら謝るよ。ごめんね」
「それそれそれ!」
 良い子ぶるの、やめろ、ばか。
「どれ?」
「それ!」
「ごめん。代名詞じゃわからないや」
「…な」「春加っ!」
(ぎゃっ!)
 お母さんが、おばさんたちに見えないようにあたしの背中をつねった。
「ほんとにもう、子どもで。おほほほほ」
 なにが、おほほほほ、よ。
(いだだだだだ)
 アザになったら百倍返しだからね。
「じゃ、行こか」
 母子が静かににらみあっている間に入ったゾンビが、にっこりあたしの腕を引く。
(ちょ…)
 あたしの足は当然フローリングの床には踏ん張れなくて。
 スルスル引っぱられてしまう。
「お父さん!」
 止めて、止めて。
「あーもう。望! 早くそのやかましいのを下につれてっちゃってくれ」
 えぇぇぇえ?
 ひどい。グレてやるぅ。

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