『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「おーい。しっかり歩けぇ」
 わかってるよう。
 でも、夜になると、こんなに寒いなんて知らなかったんだもん。
 もう5月だっていうのに失礼じゃない? この風は。
 なにしろ風にビューっと吹かれると、頭がガンガンする。
 だめェ。リタイア。
 道路にしゃがみこんだら、
「やれやれ」
 うしろから歩いてきていたゾンビが、あたしの前でひょいとしゃがんだ。
 な…によ。
「大通りまで、おぶったるわ」
「な…。冗談でしょ」
 あたしはもう16歳だよ。
 ひとがいる前で、そんなはずかしいことできるか。
「ほしたら、ギター持つわ」
 前を歩いていたタッチャンが、鎖をジャリジャリ鳴らしてもどってくる。
「少し休めば大丈夫だから」
「無理したらあかんがね。(のぞみ)におぶってまえば、えーて」
 そんなに責任を感じてくれなくてもいいのに、タッチャン。
 ジュースにお酒が入ってるなんて、タッチャンは知らなかったんだから。
「みんな始発までいるんでしょ? もどってください。あたしは本当に、だいじょぶですから」
「あかんて! ワシも心配やで、駅までついてくわ」
「あの…本当に――…」
 言いながら唇が震えだす。
 でも平気だから。少し休めば。
「あたし、大丈夫です…から」
 でも寒い……。
 つぶやいたらゾンビが立ち上がった。
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