『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「えーわ。タッチャン。おれもこのまま帰るで。ギターだけ預かっててくりゃあ」
「えー、でもよう……」
 ふたりして、あたしから離れて、ぼそぼそ。
「はぁん。ほんじゃ春加(はるか)ちゃん! またな」
 タッチャンは、ゾンビのギターをかかえて、ライヴハウスのほうにもどっていった。
 ゾンビが黙ってあたしの前に立つ。
「ほれ」しゃがんで背中を向けた。
「はずかしがるようなガラか!」
 ちぇっ。
 ばれてーら。
「まったく。手のかかるお嬢ちゃんや」
 あたしがおぶさると、ゾンビはゆっくり立ち上がる。
 そこで見えたのは驚きの世界。
 来たときには目にも入らなかった看板や、ビルの窓。
 なんだか、道路の幅までちがって見えた。
「うわー。高ぁい!」
「なに喜んどるんや……。まるっきりガキやな。ほんと」
 うるさい、うるさい。
「いいなぁ。あたしもこんくらい背が高かったら、今日だってもっとよくステージが見えたのにぃ」
「また()や、えぇわ」
「そうだけどお……」
 わっ!
 せまってきた看板に、あわてて首をひっこめたら、
「あはははは。ぶちゃせんて」
 ゾンビがのんきに笑った。
「ね、ゾンビィ?」
(のぞみ)!」
「あれ? 呼びつけしていいの?」
「ゾンビより、ましやわ」
 あはははは
「じゃ、のゾンビ?」
「なめとんのか、こら」
「ピンポーン。大当たりぃ」
「やれやれ」
 ゾンビがあたしを背中にのせたまま肩をすくめる。
 右、左。右、左。
 ゆら。ゆら。ゆら。
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