『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「のゾンビくんは、いつもこんなふうに、世の中が見てるのねえ」
 なんだかずっと、ずうーっと先まで、見えるみたいだ。
「なにを哲学しとるんや。元気でたなら、おりろよ、こらっ」
「やだ。楽ちんだもん」
「こっちは重いわ」
「うそぉ! そんなに体重ないよ、あたし」
「42キロ」
 え。
「やだ。どうして知ってるの?」
「体重計の家族設定3。身長154センチ、おまえやろ?」
 笑うゾンビと、あたしの頭の上を、ゴーゴーと山手線の電車が通る。
「のぞいたの?」
「おばさんが4の設定してええ言うで」
「ほかをのぞいたのね?」
 怒りのまま首をしめようとしたら、
「そうはさせん!」
 ゾンビがいきなり走り出して。
「きゃあぁぁ!」あわててしがみつく。
「やめて! やめて! 気持ち悪い」
「あ…。ごめん。そうやったな。大丈夫か?」
 あれ?
 なぁんだよう。
 やさしぶっちゃって。
「うっそピョーン」
「なっ…。春加(はるか)!」
 あはははは。
 怒るけどもう、なんにもしかえし、しないんだね。
 だったら、もうちょっと、くっついちゃお。
「どうした? まだ気分悪いのか?」
「ううん…」
 温かいから。

 ガード下をぬけてくるクルマの排気音が、だんだん近づいてくる。
 大通りまで、あとちょっと。
「でら重い赤ん坊やな」
「うん」
 目をつぶると、酔いの残りで身体が浮かぶ。
 それともこれは別のもの?
 うーん。
 ふわ。ふわ。ふわ。

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