『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-

 念入りに(くちびる)を光らせて。
 シスターに見つからないように、うつむいて早足にトイレを出ると、だれかに前をふさがれた。
「あぁら、お春。そのカーディガン、すてきね」
 一色(いっしき) 沙月(さつき)姫だ。
「あ? うん。ちょっとね」
 どうしよう。
 一番まずい子に、つかまっちゃった。
 このミス双葉学園のゴシップ好きには、ついていけないものがあるからな。
 たとえ親戚だってゾンビも男の子。
 これは……、なにか探られないうちに逃げねば。
「お先!」
 バイバイ。
 手をふってすれちがったら、
「やーだぁ。せっかくおもしろい情報をつかんだのに。聞かないとソンするわよぉ?」
 うしろから声が追いかけてきた。
「ごめーん」
 いそぐんだよう。
 腕時計をちらり。
 別に、わくわくドキドキなデートじゃないんだけど。
 遅刻なんかしたらなにを言いだすかわかんないもんな、ゾンビのやつ。
「な一にィ? だれかとお約束?」
「ん? ちょっと」
 男の子に会うなんて、言えないってば。
「ちょっとって?」
 たのむから追求しないでよう。
 かまわず手をふって階段を降りだしたら、うしろから追いかけてくる足音がする。
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