『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「おれね、ハコに来てもらっても、ゲストと話してる余裕ないんだ。いろいろ準備もあるしね。ひとりで来てもつまらないと思うよ」
 沙月(さつき)へのゾンビの返事に、うんうん。
 うなづいているうちに、どうでもよくなった。
 なにしろ、ちっとも良い思い出じゃない。
 呼んだくせにほったらかし。
 そのせいであたしは、しっかり酔っぱらわせてもらいました、ってやつだ。
 も、2度と行くもんか。

「あら。心配なさらないで。わたしにはお春がいるもの。かまってくださらなくてもいいわ。ね、お春」
「えっ。なんであたしも? やだよ。行きたいならひとりで行きなさいよ」
 即刻の拒絶にゾンビが苦笑い。
 沙月は不思議そうに長いまつげをパチパチしてる。
春加(はるか)はもう来ないよ。こいつは全然、音のシュミがちがうから」
 なに、それ。
 あたしの好きな音楽なんて知りもしないくせに。
(…って、そうか)
 あたしには、きみのバンドは理解できないって。
 そう言いたいわけね。
「どうせあたしは耳が悪いからね」
「そんなこと言ってないだろ」
 言ったも同然じゃん。
 あからさまに空気が悪くなったあたしたちに気づいてか沙月が笑った。
「いいなぁ、親戚って。――遠慮がないですね」
 笑顔はまっすぐゾンビに向かってる。
 あたしの存在は無視だ。
「えと…ぁの……。ごめんね」
 ゾンビまで!
 くやしーい。
 親戚なんだから、問題外のソトなのはあたりまえだけど。
 美人にはへろへろって。
 つまらない男。
 (それなら――…)
「帰る!」
 も、帰る、帰る、帰る。
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