『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「おい! 春加」
「やだ、お春。きゅうにどうしたの?」
下りのエレベーター前まで追いかけてきたのはゾンビ。
「どういうつもりや!」
「よかったねえ。ちゃんとしたデートの相手が見つかってさ」
「なっ……」
ゾンビが眼をむいた。
なによう。
こんなにひとが大勢いるところで、やる気?
エレベーターのドアが開いて、誘導されるまま降りるひとたちの列がぞろぞろ動き出す。
「ま、ごゆっくり。夕飯いらないなら、今すぐお母さんに電話してやってよね。余っちゃうとかわいそうだから。じゃ!」
「春加!」
ばっかやろう。
名前なんか呼ぶくらいならな、追いかけてきてみろ。
閉まるドアのすきまから、ゾンビのうしろでぶんぶん手をふっている沙月が見えた。
あの子ってば、なんて素直なの?
じゃま者が消えて、うれしがってる。
あたしが気をきかせて帰るんだと思ってる。
ああ、ちくしょう。
鼻がツーンとする。
これはきっと、200メートル下の地上にもどろうとしてる、この小さな箱のなかに、あたしの夏服のナフタリンの匂いが充満してきたからだ。
そうに…決まってる!