『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「お母さん、お茶!」
 ごくごく飲みほして空になった湯呑(ゆのみ)をテーブルにどん!
春加(はるか)!」「春加……」
 (まゆ)をひそめて即座にお説教モードに入るお母さんはともかく。
 なんでゾンビにまで、ため息をつかれないといけないの。
「とにかくね。あたしは悪くないから。もうウダウダ言わないで!」
 どこでなにをしてきたのか知らないけど。
 沙月(さつき)といたんでしょ?
 沙月はあたしが知ってる、ベストワンきれい女子なんだから。
 いやになるくらい素直だし。
 きみなんかにはもったいないんだから。
 横目でにらんだら、いかにもいま思い出しました…みたいにゾンビがあたしを見た。
「そうそう。春加の好きそうなCD買ってきたんだ。あとで聞きにおいで」
 顔は笑っているけど、声は全然笑ってないんだよ、色男。
「えー、いいよう」
 楽しくデートしてきたくせに。
 いまさらあたしに、なんの話があるっての?
「あら。昨日おやつに焼いたアップルパイがまだあるから、ちょうどいいわ、ふたりで食べちゃってちょうだい」
 でたぁ。
 お母さんの持ってけ攻撃。
 お母さんてば、なにかっていうとゾンビのこと、かまいたがるんだから。
 ゾンビはあたしを呼びつけたかったら、お母さんの前で「おいで」とか「来る?」とか優しい声を出せばいいの。
 こういう悪知恵のはたらくところ。
 本当にきらいだ。
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