『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 横をすりぬけようとしたら、
「待ちゃあ」ゾンビに腕をつかまれた。
「そろそろ仲直りしよまい」
「ケンカなんかしてないでしょ。離して!」
 沙月(さつき)のほうが、いいくせに。
 もう一生、口きいてやるもんか。
 毎日毎日、ラヴラヴモードなくせに。
 沙月から聞いてるんだからね。

 走りだしたら、
「むかえに行くで! えーな!」
 背中にゾンビの声が聞こえた。
(方言…だった)

 なんなのよ。
 なんなのよ、あいつ。
『あんたのことなんか知りたくないもん』まで言われて、くやしくないの?
 ばっかやろう。
 あたしなんか、あたしなんかなぁ……。

 くやしくて涙が……でる。
(負けた……)
 あいつのほうが、やっぱりオトナだ。
 ちくしょう。

 いまさらもう、あたしはあいつに、本当の自分なんか見せられないのに。
 好きになっちゃった。
 だけど、そんなこと言えないのに。

 あいつはただの親戚なんだもん。
 沙月はあたしの友だちなんだ…もん。

 見上げる空は、くもり空。
「雨……降れぇ――っ」
 梅雨なのに。
 雨が降らなきや、あたしは…困るじゃないか。
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