『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「ごきげんよう」「ごきげんよう」
 帰りのあいさつがすむとすぐに、沙月(さつき)の席に行った。
「沙月……」
「あっ、お春。ちょうどよいわ。ヒマなら今日、ちょっと買い物につきあってよ。 夏のワンピースがほしいのよ」
 ううん。
 首をふる。
「今日あたし、おそくなるから、さ」
「あら、なんで?」
 なんでこんなに言いづらいんだろ。
 これしかないのに。
 こうしようって決めたのに。
「なに?」
 沙月が首をかしげて待ってくれるから、大きく息を吸って深呼吸。
「校門のとこで(のぞみ)くん待ってるから、あたし都合悪くなったって言ってくれない?」
「え。望さんが来てるの?」
「…うん」
 沙月が教室を見回して、きゅうにささやき声になる。
「やだ、お春、都合ってなによ? それなら早く終わってらっしゃいよ。わたしがそれまで望さんのお相手をしておくわ」
「たのむよ、沙月。あたし――…」

「なに? のぞみサンて誰?」
「ふたりとも、なにコソコソしてるのよ」
 やじうまが集まってきた。

「なんでもないわよ。あっちへお行き」
 沙月がみんなを追いはらっている間に、
「じゃ、よろしく」
 教室を出る。
 これで、いいんだ。
 沙月は、あたしが知ってる1番キレイで、1番素直で、いいおうちの子なんだから。
 これで、いいんだ。
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