『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 図書室で30分うだうだしてから校門を出た。
 一瞬、待っててくれるかも…なんて。
 それでも期待しちゃったりして。
 自分があんまりバカで、みじめで、駅までの道がいつもの倍くらい、長く感じた。

 改札を通りながら、お母さんへの言い訳を考える。
 行きちがいになっちゃった。
 うん。それでいこう。
 とぼとぼホームにおりると、視界のすみっこで、ベンチに座っていたウチの白い夏服が立ち上がる。
「お春!」
 まちがえようもないワンレンが、手をふりながら駆けよってきた。
沙月(さつき)だ!)
 うそ。やだ、ゾンビは?
「どうしたの?」
 返事を待たなくても、沙月の肩ごしにホームの端のベンチから、ゆらっと立ち上がる背の高い人影。
(また朝の服と…ちがう)
 砂色のジャケットの、オトナみたいな…ゾンビ。
「待ってたのよ。意外に早かったわね」
「な…んで?」
 どうして待ってたりするのよ。
「え? だって校門で待ってたらシスターがこわいしぃ。みんなの目もうるさいでしょ。そしたら望さんが駅で待とうって言うからぁ」
 ちがう!
「あとはよろしくって言ったでしょ」
「それは伝えたわよ」沙月がふりかえってゾンビに手をふる。
「でもなんか、お家のご用なんですって? ふだん全然、話す機会がないらしいのに、相談して決めなきゃならないことまで、すっぽかしちゃだめよ、お春」
 話す機会が…ない?
 たしかにそれは、ゾンビにとってはウソじゃない…けど。
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