『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 ゾンビをさけようとしてるあたしには、それがどんなに大変か。

 毎日、毎日、泣きたいくらい顔をあわせている。
 同じものを食べて、ひとつ屋根の下で、何時におきるか、いつ帰ってくるか。
 小さな物音ひとつにも、あいつのしていることを感じているから。
(逃げだしたい……)

「あ、ほら、電車きた。乗ろ、乗ろ」
 沙月(さつき)はふり向いて、離れた場所にいるゾンビに乗れ乗れって合図をしてる。
「でもいいわね、親戚が近くにいるって。(のぞみ)さんみたいな親戚の男の子がいたら、家の用事でもなんでも引き受けちゃうわ、わたしなら」
「…………」
「男の子ってSNSの反応は鈍いってネットで読んだけど。望さんもお返事はほとんどスタンプだしぃ。質問にはていねいなレスをくれるけど、電話してもよいですかぁって聞いても、よいのは沙月ちゃんは寝ている時間だと思うって」
「…………」
「ああ。お春のおかげで、今日は望さんといっぱいしゃべれて、ラッキー!」
「そう……」
 こんなふうに、だれかを好きな気持ちを、さらっと言える沙月がうらやましいな。
 うらやましくって……にくらしい。
 最低だ、あたしって。
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