『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
(ジョーダンだろぉぉぉぉ?)
 あたしに(にら)まれているとも知らないで、ツンツン頭は何気ないふりでスーツの(えり)を整えると、また座り直す。
 …つもりだったらしいけど。
「あっかーん」
 いきなり両足を畳の上になげだした。
 なげだしてからやっと、寝起きのはれぼったいゾンビみたいな目が、あたしに気づく。
「ははははは」
 笑ってごまかせってか?
 ごまかせないとわかると、ツンツン頭のゾンビは、いそいで笑い顔を引っこめた。
 ぽりぽり(ほほ)をかいて、うわめづかいにあたしを見る。
「もしかして、ずっと、見て…た?」
 見てたとも!
「アシ…しびれちゃった。ははは」
 笑いごとかっ。
 あたしが膝で、ずりっと一歩近寄ったのを見て、ゾンビがはれぼったい目を見開いた。
「な…。ちょっと。まさか………」
 察しがいいじゃんか。
「おい。やめろよ。ちょっと!」
「天罰!」
 畳の上の動かない両足首をぎゅうっとつかむと、ツンツン頭が声にならない絶叫に大口をあける。
 おばあちゃんのお通夜に居眠りするなんて。
(許さぁーん!)
 もう一度、ぐいっと握って、ツンツン頭が畳を3回たたいてギブアップしたところで、
「ざまぁみろ」
 立ち上がったはずが。
「ちょ…待っ…」「わっ!」
 畳に膝からスライディング。
 見ると。
 ツンツン頭のゾンビがあたしの制服のスカートを、つかんでいた。
「待てこらっ。なんつぅクソガキになったんや。おめぇは」
 なっ…!
 くそがき……!?
 自分なんか、まるでヤクザ映画のチンピラみたいな口をきくくせに。
「放してよ、痴漢! 大声だすよ」
「だれが痴漢や。おれが痴漢なら、おめぇは暴漢やねぇか。たわけ」
 たわけ!
 今度は時代劇のばか殿かっ。
「おたく、だれ?」
「あのな! ひとの顔もよーおぼえんのか、おめえは。おれは地矢(ちや)(のぞみ)や!」
「…………」

 なんて感動的な再会。

 みっつ年上の、無口な、デブの、ボーズ頭の陰キャだった“ちィ兄ちゃん”は、ヤクザみたいな口をきく、くそったれの、ひょろひょろ手足の長い、ツンツン頭のゾンビに成長なさったらしい。

 地失 望。18歳。
 4月からW大1年生?
 ああ。
 こんなのがあたしの親戚だなんてぇ――っ!

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