『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「あかんて! そんなアレンジじゃ、東京の客は、ついてこれぇせんわ。3割がたノリが悪ぃんやで。こっちも考えたらなぁかんわ」
 ドラムのお兄さんがゾンビにどなってる。
 ライヴのときは気づかなかったけど。
 どこからどう見ても、メンバーのなかではギターのゾンビが1番若い。
「けど、レベル下げてまで、おれは客にコビ売りたない!」
 若いみたいなのに、対等にわたりあっちゃうところが、ゾンビらしいと言えば、言えるんだろう。
 ゾンビは強引にことを進めることも、にっこり笑いながらひとを動かすことも平然とするから。
 それは、たったの3カ月同じ家で暮らしただけのあたしでも気づいた。
 ここのお兄さんたちだって、きっと知ってる。

「たわけ。おめぇが18になるまで3年も待ったんやぞ。満を持しての東京進出や。ただで売れるもんなら、コビでも売らんかい」
 狭いスタジオにナゴヤ弁がとびかっている。
 あたしたちは、パイプ椅子をもらってスタジオのすみにいるんだけど。
 沙月はひとりだけヒマそうなヴォーカルのお兄さんと、さっきからずっとコソコソしゃべりまくり。
「東京のひとじゃないのはわかったけどお。あんな姿を見ると、やっぱりなんか別人みたいですよぉ。(のぞみ)さん」
「そう? そりゃ、だまされないうちにボクに会ってよかったねえ。望みたいな田舎者(いなかもの)には、きみはもってゃーにゃーがね」
「にゃ…、にゃが?」
「しまったぁ。つい方言がでてまったがや」
「いやーだぁ。永井さんたら。うふふふふ」
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