『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 うふふふふ…か。
 ばかだよ、ゾンビは。
 ギターを持ったら、もう夢中なんだから。
 沙月(さつき)みたいな美人を、ちゃんとつかまえておきたかったらね、もっとかまってあげないと……、知らないよ?
 こんな心配を、あたしにさせるなんて。
 本当に大ばかやろうだ、あいつは。

 スタジオのすみっこでおきていることになんか目もくれず、相変わらずゾンビはドラムのお兄さんと言いあっている。
 突然ゾンビの手が譜面台をばしんと打った。
「なんと言われても! おれは、やりたないことは、やらん」
 ギターを肩からおろしはじめる。
「自分の曲のアレンジもようせんなら、もう曲も書かんで!」
 わがまま言っちゃって。
 タッチャン、マネージャーでしょ。
「あの……。おこらなくて…いいんですか?」
 となりに座っているタッチャンにしか届かない声で、聞いてみる。
「ん? 春加(はるか)ちゃんが心配せんでもええよ。最近わしら、(のぞみ)を1発で黙らせるネタを持っとるから。わしが出ていかんでも、だれかがなんとかするで」
 パイプ椅子(いす)に逆向きに座って、背もたれにひじをのせたタッチャンが、革ジャンの(そで)で、ごついブーツを磨きながら、のんきに笑う。
(そんなこと言ったって……)
 見たこともないほど、子どもみたいにへソを曲げちゃってるのに。
 本当に出て行きそうよ、いいの?
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