『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「まあ、まあ、落ちつきゃあ」
 それまで黙って様子を見ていたベースのお兄さんが、(ひざ)に抱えていたベースを大切そうにスチールの台に立てて、椅子から立ち上がった。
 よりによって、ひとりだけサラリーマンみたいで、たよりなさそうなお兄さんだけど?
「ほんとに……、いい、の?」
 ちらっと見たタッチャンは、
「いーの、いーの」
 相変わらずブーツ磨きに専念。
 ベースのお兄さんは床でうねっているコードをよけながら、のんびりと移動して、自分より背の高いゾンビの肩を、ぽんぽんとたたいた。
「ここはリーダーの言うことも考えたらなぁかんよ、ゾンビちゃん」
「なっ……」
 ベースのお兄さんに肩をつかまれたゾンビが、ちらっとあたしを見た。

(ゾンビちゃん?)

 なんてこと。
 顔がカッと熱いから、赤くなっていそうなのが自分でもわかる。
 ジャラっと音がして。
春加(はるか)ちゃんのせいやぞぉ」
 タッチャンがあたしの耳元でささやいた言葉が、あたしに追い打ち。
「おとなになってくれんか、ゾンビちゃん。たのむて。なっ」
 ベースのお兄さんにニヤニヤせまられて、壁まであとじさったゾンビが、(くちびる)を思いきり「へ」の字に曲げてギターを肩にもどす。
「ほーら」タッチャンがくすっと笑った。
「すっかり弱ぁなってまったやろ?」
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