『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「うそ…」
 どうしよう。
 あたし、みんなに迷惑かけたから……。
 あたし酔っぱらって、あたし、あたし……。

「ねえ!」沙月(さつき)が突然、あたしのシャツの袖を引っぱった。
「あのかた今、ゾンビとか言った? 地方のかたの言葉ってよく聞き取れないんだけど――。のぞんみ?」
「ご、めん」
「やだ。なにお春があやまってんのよ」
 だって、あたしのせいだ。
(ゾンビちゃんだって)
 あたしのせいで、ゾンビ、恥かいちゃったから。
 ごめんね。
 あたし、はずかしい身内で、ごめん。
 やっぱり来るんじゃなかった。

「ワン! ツー!」
 ドラムのお兄さんのスティックがコンコン鳴って、ブースのなかに楽器の音があふれだす。
「沙月ちゃん、おれの出番だよぉ」
 永井さんがマイクの前にとびだして。
「待ってました! 永井さん」
 沙月がぱちぱちとかわいらしく胸の前で拍手をして伸びあがる。
 おなかに響くドラムの音や、ベースの音。
 耳から頭を突き刺すヴォーカルの声。
 みんな、みんな、すごい力であたしを椅子に押さえこむけど。
 あたしの身体は、だんだん、だんだんかたむいていく。
 あいつの弾く、ギターの音に。
 
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