『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 夕食のあと、ぼーっとテレビの特番を見ていて、いつもより早く帰ってきたお父さんに先を越された。
 おかげでお風呂を出たらもう11時半。
 身体が疲れているときと、心が疲れてしまったときは、時間の流れが少しちがうみたいだ。
 疲れているのが身体なら、がんばろうと一所懸命になれるけど。
 心が疲れてしまうと、なにをするのもスローモーション。
 ドライヤーをにぎったまま、ぼーっと鏡に映る自分を見てしまう。

 この先、お化粧をするようになっても、あたしは絶対に美人とは言われないだろう。
 ちびで、平凡で、おっぱいもぺったんこ。
 つまらない女の子。
 だからって自分をきらったりはしないけど、きれいになりたいって努力する意味はある?
「…………」
 唇をうにゅーっと伸ばして。
 めじりを上げて、下げて。
「うわー。おばあちゃんにそっくり」
 つぶやいたら笑っていた。
 そっくりなひとがいるのに、自分のことをかわいくないと思うのは失礼よね。
「お父さんには似てないからっ」
 指差し点検はしてしまうけど。

「あ……」
 ぽつぽつ、ぽつぽつ、窓の外で音がし始めた。
 雨だ。
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