『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
 あせっている間に、いきなり目の前のアコーディオンドアが全開。
「あっ」
 全身ビショビショのゾンビは、暗がりにいたあたしを見て、ドアの把手をつかんだまま、一瞬立ち止まったけど。
「いやぁ、降られてまった」
 壁ぎわにはりついたあたしを無視して、なかに入ってくる。
「びしょびしょや」
 ひとりごとみたいに言って、身体にはりついたインナーを、ジーパンからごそごそ引きだしはじめた。
「望…くん!」
 い…やだ。
 なにすんの?
 レースアップの黒いシャツといっしょに頭から脱ぎ捨てる。
「ほら、見てみ。しぼれるぞ、これは」
(のぞみ)くんっ!」
 あたしの悲鳴みたいな声が聞こえたはずなのに、ゾンビはかまわず脱いだシャツを振る。
(やめて!)
「どいて!」
 赤くなっている顔を見られたくなくて。
 うつむいて壁とゾンビのすきまをめざす。
 身体をすきまに押しこもうとしたら、シャツをぶらさげたゾンビの腕が、すっ…と壁のスイッチにのびて前をふさいだ。
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