無口な彼の熾烈な想い
その暖かい手のひらから伝わる熱が絢斗の頑な心を溶かしていく。

「表情に出さずに沈黙を保つことで必死で武装してきたんだよね?自分以外の誰のことも傷つけないように」

鈴の言葉と優しい眼差しが絢斗の荒んだ心を包み込んでいく。

「その頃の絢斗さんも、今目の前にいる不器用な絢斗さんも、私はとても愛しく思うよ?」

そう言って抱き寄せてくれた鈴を、絢斗は反射的に強く抱き締め返していた。

『あんな家庭に育って可哀想』

『なんだかんだ言っても本当は好きだからやってる(女装)んじゃねえの?』

好き勝手な哀れみや誹謗中傷の数々に、絢斗は傷つき次第に殻に閉じ籠っていった。

そんな絢斗を、鈴は哀れむでも蔑むでもなく、ただ理解し共感し認めてくれた。

それは同情ではなく絢斗にとっては受容。

ありのままの自分を受け入れてくれる家族(姉家族のみだが)以外の存在に、絢斗は初めて出会った。

「鈴・・・」

「よしよし。今日の絢斗さんは甘えん坊キャラだね。遠慮なく私の胸にどんと甘えなさい」

沸々と燃え上がる絢斗の思いをよそに、酔っぱらいの太っ腹鈴には甘い雰囲気は欠片も感じられない。

初めは、絢斗とて、抱き合い触れ合う鈴の意外にも豊満な胸元から聞こえてくる規則的な心音に安心感を得られていた。

が、しかし、絢斗も人間不振だったとはいえ、恋に目覚めたばかりの(高校生並みに)健全な男だ。

冷静になり改めて自覚すると、暗闇の車内という密室でのこの状況は、いささか不健全で不届きな事態ではないだろうか?

そう、気付いてしまう余裕がお酒を飲んでいない絢斗にはあった。

鈴は相変わらず、絢斗の頭を撫でながら豊満な胸を押し付けて微笑んでいる。

゛こいつは天使じゃなくて悪魔か!゛

考えてみれば、いや深く考えなくても・・・。

自分とは異なり柔らかくて甘い香りのする愛しい鈴の魅力的な身体に、ノーマル嗜好でウブな絢斗が欲情しない筈はなかった。

たとえこれまで一切女性に興味を持たず欲情を感じなかったとしても・・・!

絢斗は28歳にして、初めて感じる男らしい欲望に戸惑いを覚えながらも、言い知れぬ満足感と、この先どう対応すれば正解なのかがわからない状況に戸惑いを隠せないのだった。
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