無口な彼の熾烈な想い
シャワーを浴び、1日の汚れを落とすとさっぱりして心も落ち着いた。

鈴は溜めていたお湯につかると、安堵のため息をついた。

熱めのお湯に温泉のもとをたらしてつかるのが鈴のリフレッシュ方法の一つだ。

男性が家の中にいるというのに、お湯につかってすっかり警戒心が損なわれた鈴は気づけば20分以上もお風呂に滞在していた。

ここまでくればおそらく絢斗もゲストルームに入って横になっていることだろう。

十分に心も体もあたたまった鈴は、モコモコワンピース型のルームウェアに袖を通すと、大きく伸びをして脱衣場のドアを開いた。

「け、絢斗さん、どうしてここに・・・」

気まずそうな表情の絢斗を見て、鈴はひとつの可能性を思い付く。

「あ、歯磨き!ごめんなさい。気づかなくて。こちらに新しい歯ブラシがあるから使って。口が気持ち悪いと眠れないよね?」

確かにそのことも気がかりではあったが、絢斗はなかなかお風呂から戻って来ない鈴を心配していたのだ。

しかし女性の入浴中に乱入するわけにもいかず、こうして脱衣場の前に立ちすくんでいたのだ。

「いや、溺れてるんじゃないかと思って心配した」

「ああ、そうだったんだね。私は長風呂なの。心配させるのなら言っておけば良かったね」

「髪の毛、そのままにしてると風邪を引く」

さりげなく背中に手を置き、鈴をリビングにエスコートする絢斗が憎い。

゛実はこの人、女慣れしてる?゛

そんな疑念が鈴の頭をよぎったが、首まで赤くしている絢斗を見たら、そんな疑念もどこかに消えていった。

「ほら、座って。俺が乾かしてやる」

ギョギョギョギョ!

゛髪乾かしてやるよ゛

イベントに突入しましたよ。どんだけ引きが強いんだよ!

と、自分に突っ込みを入れながらも、鈴は首もとまで真っ赤だ。

人間不振といえども、数ある恋人たちのあれやこれやに興味がなかったわけではない。

ドライヤーで髪を乾かしてもらうのもそうだが、お姫様抱っこや壁ドンなどという鉄板のイケメン所作は大いに大歓迎であった。

もちろんこれまでは二次元イケメン゛ソウくん゛限定だったが。

髪を乾かしてくれる大きな手もそうだが、鈴の背中に密着している腹筋から胸筋にかけても暖かくて好ましい。

車の中とソファであれだけ眠って、あまり眠くはないはずなのに、鈴はあまりの心地よさに瞼が落ちそうになっていた。
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